ゆられて、揺られ

 最近よく母に訪ねてきていただいている。
 はじめは怪我の見舞いなのだと思っていたけれど
 どうやら目的は別のとこにあるように思えるようになった。
 母にどういう思惑があるか本当のところがわわからない。
 ただ、僕を使ってなにかをしたいようで
 母が購入した家に住まないかと勧められている。
 そのうち料亭にでも呼び出されて家族全員で
 殺伐と食事会などひらかれでもしたらと思うと
 なんだかすべてが億劫に思えてくる。
 一葉写真を見せられて、許婚だとでも言われたら
 いかがなものだろうか……
 談笑している人たちのなか、独り青ざめて肩を落とす様子が
 目に浮かんでくるようだ。
 ただの妄想であることを祈りたい。
 私は生涯独身でありたいと思っている。
 養子をもらいたいと思ったことはあっても、自らの子を残すことはないと思っている。
 特定の女性とつきあうつもりもない。
 幸いなことに、僕の容姿はいかにもヲタだしキモメンだし非モテ系なので
 女性問題に悩まされるということは、この先もないと思う。
 母上には申し訳ないし、親の愛情子知らずなのだろうけれど
 プログラムされた生き方に流されたくはない。
 不器用でも、僕は僕でいたいんだ。
 ……とか思いつつも、母がおいていった天ぷらを捨てるわけにいかず
 海老をくわえながら、物思いにふけっていた夏のある日。
 大地を這うような生温い風を肌にうけながら
 ぽつりり、ぽつりと、思いが浮かんでは消え、消えては浮かびとしている。
 今となってはそばを通ることもないのだけれど
 痛い足を引きずりながら子供のころよく遊んだ公園までいき、ブランコをゆらす。
 昔はよく靴を飛ばしたりして、友達と飛距離を競ったり
 飛ばした靴の向きによって占ったりなんかをしていたものだ。
 ため息が漏れては闇に消える。
 静止した虚空の中、街灯の薄暗い光と、不気味に聞えるブランコの音がむなしくて
 僕は空を仰ぐ。
 キーコ、キーコ……
 はぁ〜、どうすっかなぁ〜……