公道バトル

 青梅街道を走行中、2 台の自転車に追い越された。
 どうやら MTBランドナーが公道バトルを繰り広げていたようで
 抜きつ抜かれつしていた。
 様子でも見たら面白いかもしれないとイージーライダーを加速させ
 ニ台の自転車と一定の距離を保ちながら進んで行く。
 スピードメーターを見ると 37 km / h でていた。
 信号待ちで、それぞれ停車するとランドナーMTB に話しかけている。
 どうやら仲間で競っているようだ。


 MTB はハンドルのところにカバンをつけていて
 ランドナーは帽子をかぶっていたのが見えた。
 信号が変わる。
 一斉にクランクを回して走り出す。
 速い、二台ともスタートダッシュからして速かった。
 こちらも軽いギア比でクランクを回して追いつく。
 どうやらランドナーのほうが MTB より前方に出ることが多かったけれど
 どきどき MTB が矢のように後方からランドナーを追いぬいたりしていた。
 スピードはグングンあがっていく。
 38、39、41、42 ……三台の自転車が一列に連なって風を切る。
 この速さなら抜ける。
 バトルに参加する気はなかったけれど、目の前で追いつ追われつしているのを
 見ているのも危ないと思って、そろそろいっきに抜き去ることにした。
 身体を倒して空気抵抗を減らし、思いきりペダルを蹴った。
 後方を確認すると車の姿がなかった。
 念の為、右手をのばして斜線変更の予告合図を送る。
 目の前の景色が高速で近づいては、瞬きをする間に過ぎ去って行く。
 二台の自転車を抜いてからも、しばらくは距離を引き離す為に
 めいいっぱい前へと漕ぎすすめた。
 地面に影がみえた、奴の気配がした。
 ランドナーが僕の後ろにぴったりとついてくる。
 今か今かと抜くタイミングをうかがっている様子だ。
 イージーライダー 18 段変則ギアのクロスバイク
 フラットバーハンドルであるけれど
 ランドナーはドロップハンドルだ。
 正確に何段ギアをつんでいるかわからないけれど
 最低でも 18 段以上、24 段はあるだろう、もしや 27 段かもしれない。
 抜かれると思った。
 抜かれたくないと思った。
 走るのが楽しかった。
 きっとお前もそうなんだろ、イージーライダー
 グリップを力いっぱい握り締めた。
 完全に身体を倒してエアロモードにはいる。
 ブースト・オン !
 ケイデンス臨界点までカウントスタート、10、9、8、7、6、5、4……
 何キロ出ていたかはわからない。
 蒼いアルミフレームが風を突き抜けて行く。
 その時だ、僕の右の視界にランドナーがうつった。
 「ランドナーは、化け物か……」
 完全に平行になり、やがてランドナーは前に出た。
 どうやら、MTB も追いついてきたようだ。
 抜かしてもらうことにした。


 別れ道にでるとランドナーMTB が挨拶をかわして
 MTB はそのまま青梅街道を、ランドナーイージーライダー
 五日市街道にはいった。
 ランドナー減速して後方を確認した。
 どうやら、一騎打ちをしようということのようだ……
 赤信号になって、二台とも停車線の位置についた。
 緊張がはしる。
 「できれば、これは使いたくなかったな……」
 青だ。
 軽いギアのままで思いっきりクランクを回してジェットスタートをする。
 一気にスピードは 35 km/h に達し、ケイデンスを維持したまま
 シフトアップをしていく。
 カチ、カチ、ギアを変える音が聞こえる、すぐ後ろからも。
 しばらく前にでたり後ろについたりを繰り返したところ
 交通量が多くなってきた。
 青梅街道は余裕 2 車線だけど、五日市街道はしばらくすると 1 車線に狭まる。
 前にでていたランドナーが自動車の後ろについてスリップストリームにのった。
 完全に車の流れに乗っている。
 本当にあれが、人間の脚力を動力にした自転車のスピードなのか……
 50 km / h 近く出ているように見えた。
 しばらく距離があくと、ランドナースリップストリームから出て減速した。
 どうやら、僕に早く追いついて来いとでも言っているかのようだ。
 すぐ右を走る車を追い越しながら、ランドナーに接近した。
 また赤信号だ。
 ランドナーが口をひらいた。


 「けっこう飛ばしますね」
 「そちらのほうこそ速いですね」
 「よくロードレーサーが走っていたりしますね」
 「たしかに、最近増えましたよね」
 「この自転車はこんな風に見えても、けっこう速いんですよ」
 「ドロップハンドルがうらやましいです」
 「仕事帰りですか ?」
 「ええ、そちらは ?」
 「私は自転車に乗るのが趣味なようなものでして……」
 「僕もです」
 「あ、信号がかわりますね。それじゃ私は曲がりますので」
 「きょうはどうもありがとうございました、お気をつけて」


 ランドナーは交差点を曲がり、僕は直進した。
 やはり、ランドナーは楽しんでいた。
 走りを見れば、わかる。
 僕も楽しかった。
 どうかはわからないけれど、ランドナーは自転車板の住人だろうか。
 イージーライダーに乗りつづけていれば、きっとまた会える気がする。
 星空を見上げ息を吐く。
 そのむこうに、ぼんやりと流線型のイメージがうかんだ。
 ゆっくりペダルを漕いで帰路をゆく。