僕は名前を捨てた。
 仕事を捨て、仲間を捨て、友を捨ててきた。
 だから僕には友達がいない。
 昔の僕を知る人はごく限られている。
 一番昔の僕を知っている人とは
 たまに食事をするくらいで
 いまは携帯電話の電話帳の中のひとり
 というくらいの関係しかないと思う。
 その人とは同じような夢を描いていたけれど
 それぞれ道は違っていたようだ。
 結局よくある片想いだったのかもしれない。
 彼女は僕を、君と呼ぶ。


 先日撮影した写真をみて僕は
 僕という人物のことを読みとるような思いがした。
 僕の撮る写真の人物は目線が他を向いている。
 たぶんそれは僕の対人関係を象徴していると思う。
 僕は他人を直視することができない。
 といっても話を聞くときは相手の目をみてはいる。
 だけど、心は相手のことを見てはいない。
 それは相手にも伝わっているようだ。
 僕は人と接することが怖い、傷つけてしまうことが怖い。
 僕の写真にはどこかコンプレックスがあるようで
 素直さがない。


 僕は名前も生き方も捨てて、できるだけ人と接する機会を
 つくらないようにしてきた。
 そうすれば誰も裏切らずにすむと思ったからだ。
 いつも夜景をみていた。


 そんな僕はどこへ行っても厄介者でイレギュラーな存在だった。
 僕と直接やりとりしなくても良い人は無関係という関係を好んだ。
 それでも僕に注意をしてくれたりする人たちがいてくれたけど
 それは立場上そうせざるをえないからにすぎなかった。
 殴ってくれた人、叱ってくれた人、さとしてくれた人、
 そういう人たちを僕は裏切ってきた。
 さんざん期待させておいて、ひとつも期待に答えられなかった。
 たぶん、僕はまた裏切ることになると思う。
 できればそんなことにはしたくない。
 だけど僕が動けば必ずトラブルがある。
 僕には人と交わる能力がない。


 たぶんコスプレ喫茶で話すことにしては
 おかしなことだったのかもしれないけれど
 僕の人との関わり方、その反映となる作品制作について
 アドバイスをいただいた。


 人との関わりを断とうと思っていながら
 関わる人たちは、増えていっている。
 人との出会いを僕は求めていたり
 また人と会いたくなったりして
 なんだか独りになりきれない。
 もう独りになるのは無理なのかもしれない。
 それならば、付き合い方を学ぶべきだろうし
 真剣に相手のことを見つめられるようになるべきだと思う。
 写真の撮り方を、変えてみたくなった。
 僕たちの心を写真に写したい。
 目をそむけることなく、視線をあわせていきたい。
 もっとよく相手のことを見たい。
 その人の魅力を知りたい。
 その人だけが持っている色を表現したい。
 どんな色だなんて、とても言葉ではあらわせない。
 だから描いてみたい。
 モデルになってください。